一撃を与えてくれる作品
心に何か分からない一撃を与えてくれる作品である。LaLaに掲載された表題作を一読してイチコロだった。その後、ずっと秋本尚美氏の作品は買い続けることになる。どれを取っても間違いのない作品。最近はラインスタンプも販売されているが、ラインやらないのでこちらは購入していない。
思春期女子の感情の日常マンガ
「センチメンタルマーマレイド」は、思春期女子のよく分からない感情を、よく分からない作風で描いていて、当時、主人公と同じ思春期ではあったが男であった自分には、当然よく分からなかった。しかし、何か感じるものがあった。連載は、前半後半の2分割だった気がする。
作風と勢いの印象について
失礼な言い方ではあるが、この作品当時は伸びしろの非常に多い画を描かれる作家で、横顔の描写はちょっとまずいし、顔の描き分もなかなか厳しかったけれど、全体を通してみれば、本当に魅力的な画風とストーリーだった。キャリアを積まれるに従ってストーリーも画も熟練していき、完成度の高い作品を多く世に出されている。それはそれでもちろん素晴らしい作品群なのだけれど、"センチメンタルマーマレイド"に感じた"なんだか分からないけれど凄い感"は薄れることになり、少し残念に思ったのは事実。これは、全然ジャンルが違うけれど、格闘技界にボブ・サップが出てきた時の印象に似ている。彼が出てきたときは、名だたる格闘家相手に、相手がパンチを繰り出そうが蹴りを出そうが、怪力に任せてただ突進し相手に勝つというスタイルだった。これで相手の攻撃を封じてしまい勝利するという、セオリー無視であるが、百戦錬磨のセオリー通りの格闘家に勝ってしまうという驚異的な結果を残していった。しかし次第に守ることを覚え、そして規格外さがなくなった戦いになっていった。そんなボブ・サップの闘いに近い印象を秋本氏の作風の変化に感じた。ひょっとしたら、これは秋元氏の変化ではなく、自分の成長というか秋本氏の描かれるキャラクターの歳の取り方とそれを読む自分の年の取り方がシンクロしていて、いつの間にか思春期女子という"なんだか分からない"者から、恋人たち、家族といった者達が描かれることで、自分も登場人物に対し、素直に共感できるようになってしまったのかもしれない。さらに、秋本氏の作品を読み続けることで、受け手である自分にいつも通りの秋本作品という安定を感じるセンサーが働く一方で、思春期の感情への憧憬から生まれる"昔は良かった"的感情もあるのかもしれない。しかし、それでも、それだからこそ、秋本氏の作品で一番を挙げろと言われたら、"センチメンタルマーマレイド"を挙げる。
実際当時の女子高生はどう読んだのだろうか
この作品の魅力は、"思春期女子のよく分からない感情が描かれていること"。これに尽きるのだが、その意味で、主人公と同性で当時年齢も近かった女子が読んだら、また違う印象だったのかもしれないとは思う。当時年齢は近かったが、男子だったので。過去何度も読んできたが、改めてまた読んでみても、ストーリーは完全に分かっていても楽しめるので、128ページと大作ではないし、名作でもないかもしれないが、心に感じるものがある作品であると思う。