Golden Time

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【キャンディ・キャンディ】生きていればきっと会えるとは限らない


キャンディが、アンソニーとの死別を経て、聖ポール学院での騒動でテリィと離れなければならなくなった際につぶやいたのがこの言葉。そして、その後のテリィとの遠距離恋愛において心のよすがとなるセリフである。実はこの考えは、テリィとの関係のみならず、「キャンディ・キャンディ」において最初から最後まで一貫して流れている思想なのである。これについてみていく。

テリーとの別れ(1回目)

テリィが学校を退学しアメリカに渡る船で出発してしまった際、一足遅れで港に着き、別れの言葉さえ言えなかったキャンディに対し、老人が「嬢ちゃん…人生には わかれはつきものさ 生きていりゃあ あえるさ きっと…」と語りかける。それを聞きキャンディは「生きていればあえる…」「生きていればきっと会える!いつかきっと…」とつぶやく。別れの原因となったイライザの策略にはまったことと、その後のキャンディの謹慎、テリィに与えた影響を考えれば、キャンディは港で打ちのめされていたと思う。そのキャンディに対し、その後また登場する訳でもない老人の"生きていればまた会える"と言った言葉は、折れそうになったキャンディの心をかろうじて保つに十分な力を持っていた。これでキャンディは最初のテリィとの別離を乗り越える。この時は、物理的な距離の別れであり、精神的には繋がったままであった。

テリーとの別れ(2回目)

事故によるスザナの怪我のため、テリィはキャンディと一緒にいられなくなり、2度目の別れを迎える。

キャンディは、「生きていれば…生きていれば いつか会える きっと きっと…」「もう会えない!生きてたって…生きてたって」とつぶやく。まずこれまで信じ心のよりどころとしてきたセリフをつぶやき、その後それを否定する。これは強烈な心の折れるセリフである。その証拠に、その直後、キャンディは意識を失いアードレー家に運ばれる。この時の別れは、物理的な距離は近いにもかかわらず、精神的な距離が完全に引き離されたのである。

病院の昼休み

傷ついたキャンディも、病院での暮らしに戻り、慌ただしい日々を過ごす。そして時は流れ、ある日の昼休みに「テリィと別れたとき もう立ちなおれないと思った…ボロボロにつかれてここに帰ってきた…でも… 時ってふしぎだな… あたしはまた元気になりつつある…そうよ!キャンディさまは不死身じゃ!」と言えるまでに至る。どんな悲しみも忘れることができるというのは、アンソニーとの死別とその後の物語で描かれていたが、再度、テリィとの関係においても描かれるのである。ここでも、アンソニーの死という物理的な別れと、テリィとの精神的な別れの対比となっている。

アルバートさんがウイリアム大おじさまと発覚後

アルバートさんがウイリアム大おじさまであるということに対し、キャンディの心が落ち着いてきたからか、テリィについて「時が確実にあたしたちのあいだをへだてていく…目に見えないものが すこしずつ二人のあいだにつみかさなっていく…」と客観視できるようになっている。要は悲しみを忘れることができるようになったと言っているのだが、この感覚は大人になると理解できるものである。しかし、これを少女マンガで表現したところが「キャンディ・キャンディ」のすごいところなのである。考えてみれば、キャンディがこういう境地に至ることは分かっていた。なぜならアンソニーの死を乗り越えた上にテリィとの愛があるのだから。キャンディがこのような性格であることから、テリィとの別れも最終的に乗り越えられることは理解の範囲内である。これは、特にキャンディだからという訳でない。多くの人が、愛する人と別れなければならなくなった場合でも、同じように時の経過とともに忘れていくものである。

初出

"生きていればきっと会える"という考え方。これはテリィとの1回目の別れの際のつぶやきが最初と認識しがちであるが、実際はもっと早く表れている考えである。キャンディは、丘の上の王子様に初めて会った時に、王子様が落としたと思われるバッジを拾ったが、その際に既に「このバッジをもってたら きっといつかあえる」と言っている。テリィどころかアンソニーにも会う前の話である。"生きていればきっと会える"は、「キャンディ・キャンディ」において、最初から最後まで流れている概念なのである。

物語の結末

結局、それを持っていたからかどうかは不明だが、キャンディは物語の最後に丘の上の王子様であるウイリアム大おじさまに会うことができた。このウイリアム大おじさまは、つまりアルバートさんであり、丘の上の王子様でもあるのである。"生きていればきっと会える"は、キャンディと丘の上の王子様との関係においては、物語の全体を使って達せられるのである。

キャンディ・キャンディは、幼い初恋が形を変えて実る物語

「キャンディ・キャンディ」において、キャンディが最初にまた会いたいと思ったのはアンソニーではなく、丘の上の王子様であった。そして、物語のラストシーンで、キャンディは、アルバートさんでもウイリアム大おじさまでもなく、丘の上の王子様に再会するのである。王子様が落としたと思われるバッジを拾った際に初めて言った「きっとあえる」は、物語の結末で成し遂げられるのである。

丘の上の王子様との初めての出会い

この時、キャンディは思春期前である。ここでの丘の上の王子様への思慕の念は、淡い恋心ともいうべきもので、恋愛感情とまでは言えないものである。

丘の上の王子様との再会

ラストで成長後の丘の上の王子様であるアルバートさんに再会する。しかし少なくともこのシーンまでは、キャンディは、アルバートさんのことを恋愛感情では見ていない。兄妹愛、同志愛的な愛情で見ている。つまり、「キャンディ・キャンディ」において、全編を使って達せられる"生きていればきっと会える"の概念は、男女の恋愛の文脈では達成されていないのである。恋愛の文脈では、アンソニー、テリィと、ことごとく未達のまま終えるのである。