タイトルの規模拡大が止まらない。遂に"全世界"ですよ。
お蝶夫人の役割
「エースをねらえ!」の主人公は岡ひろみであるのはその通りである。しかし、ひろみがテニスを始めたきっかけもお蝶夫人の誘いであり、物語開始から中盤に入るまで目標とされたのもお蝶夫人である。そして、この第9巻でお蝶夫人は遂に自分がひろみに、テニスの能力で追いつかれたのではなく既に抜かれたことを自覚する。以降、お蝶夫人はひろみの能力向上に尽力すると言う形で物語に絡んでいく。
岡ひろみの成功譚として描かれているのが「エースをねらえ!」であるが、お蝶夫人を主人公として抜かれる者の葛藤を描くことでもこの物語は成立する。岡ひろみは、結局、その才能に気づいた者が色々お膳立てしてくれたレールに強制的に乗せられて、右往左往しながら成功しており、そこに生ずる悩みは、ほぼ受動的悩みである。しかし、お蝶夫人は、様々なことを自ら考えて行なっている。成功譚としてでなく人間ドラマとしてならば、ひろみよりお蝶夫人のほうが厚みがある。
全日本ジュニア選抜辞退を考えるお蝶夫人
そんなお蝶夫人なので、世界を目指す人材育成のための全日本ジュニア選抜メンバーについても、岡より劣ることが分かった以上、自分はメンバーでいられないと判断し、辞退しようとする。これは庭球協会会長の父に止められる。テニスプレイヤー岡ひろみの産みの親として、良き先輩でありなさいと。お蝶夫人はこれを受けるのであるが、その後の切り替えは早く、これまで以上にひろみの能力開眼のみを考え動いていく。お人形的に環境に翻弄されるひろみと違い、一貫して自ら判断して行動するお蝶夫人がいなければ、物語は、単に能力ある者が頑張ったら世界が見えてきたというだけで全く厚みが出ない。物語の厚みという観点で見れば、「エースをねらえ!」は、お蝶夫人が主人公の物語である。
宗方コーチの伏線
第8巻では、練習日なのに自分は休むと言う伏線を張った宗方コーチ。第9巻ではいきなり6ページで、ランキングプレイヤーのジャッキー・ビントとひろみがペアを組む話に対し、
これですこしは肩の荷もおりる
と言っている。肩の荷?さらりと謎の言葉を入れてくる。これも伏線。
また、58ページでビンセント氏にコーチを頼むこと、59ページで藤堂と大学祭に行くことの許可と、これまでの宗方コーチのポリシーと少し乖離したように見える言動が、続けて出てくるところが、これも伏線的なものと考えられる。
選ばれ続ける者岡ひろみ
結局、この巻も岡ひろみは、選ばれ続けるだけで、自分からどうのと能動的に動くキャラクターではなかった。というか、最後までそういう話。