Golden Time

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【エースをねらえ!】第18巻 あこがれのウインブルドンへ!の巻


真の最終巻である。

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表紙の異変

第17巻に続きこの第18巻でもひろみは笑顔でさわやかである。しかも今度は藤堂もおらず、1人で描かれている。その代わりゴエモンがいる。

ゴエモン的なネコ

ひろみとともにゴエモンが描かれている。ずっとごぶさたでしたからね。最近は試合をテレビ観戦するひろみの母と一緒にほんの少し描かれるだけのことが多かったが、最終巻で表紙に抜擢…と思ったが、あまりに小さい。ゴエモンは結構小振りに描かれることが多かったが、これは小さい。生まれたばかりの子猫のよう。また生まれたか…これは次の世代を暗示しているのか?しかし、この巻の中にそれを象徴するようなエピソードはない。ペットは和みの象徴だから、ひろみの精神状態は、第1巻の最初の頃のように穏やかになったということだろうか。

開始早々の存在感ある人

最終巻だけあって、最初のページが、宗方コーチの顔のドアップ。そしてその下で国際大会で優勝し、大きな優勝カップを抱いて泣くひろみ。まあ、それだけで、特にストーリーには関係ないのだけれど。

優勝後の公式行事は全てキャンセル

前巻では、優勝カップを高々と掲げ、観衆が「岡!!」「岡!!」と連呼する場面で終わった。この後、さぞ華々しい展開をするのだろうと期待したら、桂コーチが「藤堂岡を送れ!あとはおれが引きうける!」「尾崎 チバ!岡の荷物を家へとどけてやれ!」と指示し、インタビュー等から岡を逃してやる。これがどのような意味を持つのだろう。我々は大坂ナオミ選手を知っている。彼女は全米オープン優勝でスターダムをのし上がった。大坂選手は四大大会優勝なので価値が違うが、「エースをねらえ!」当時の事情と、大会の開催地が日本であったことから、優勝決定となれば、かなりの報道陣が殺到したことだろう。しかし、桂コーチは岡を会場から逃す。インタビューさえ受けさせた描写がない。書かれた場面で見れば、前巻で大歓声の中、ひろみは優勝カップを掲げ、この第18巻でカップを抱いて泣き、そらだけでもう桂コーチは岡を送れ命令を出す。その後、命令を受けた藤堂が、桂コーチを見つめ、桂コーチの考えの深さが分からないみたいなことの自問に1ページ使い、次のページはもうひろみと藤堂は、普通に道を歩いている。
これでひろみは優勝直後の様々な重圧というか煩雑なことから逃げることができる。普通ならば優勝はポジティブなことであるので、公式非公式含め行事をこなすことが選手のモチベーションを高めることになろうが、ひろみの場合、宗方コーチとの関係もあり、精神的に落ち着かせることが優先された。これ、日本の協会は、お蝶夫人の父が理事長だから認められるだろうが、女子テニス協会(WTA)はこれを認めたのだろうか。ひろみはまだアマだから良かったのだろうか。

優勝後の祝勝会はもやしラーメン

ひろみと藤堂は、その足で近くの中華料理店に入る。「さあなにがいい?」と藤堂に言われ、ひろみが選んだのがもやしラーメン。これは恐るべき事態である。国際大会優勝者が、会見もせず、その日のディナーは恋人ともやしラーメン。会場近くの大衆店で食事していたら、大会を観に来た観衆に見つかる可能性が非常に高いと思うのだが…別に大丈夫だったのが逆に不思議。

千葉ちゃん

高みを目指すにつれ、孤独になって行くひろみに対し、千葉ちゃんは、キリッとした顔で、

がんばれ岡さん!
ぼくはわきからそんな君に精一杯の声援を送り続けるから!!

なんて言う。いやあ、これまで千葉ちゃんがひろみに対して行ってきた盗撮行為を考えると、そのキリッとした顔は、ちょっと怖いよ。精一杯の声援はいらないからそっとしといた方が良いのではないかな。しかし現実的には、千葉ちゃんの写真は、フォーム確認とかで、たまに役には立つからなぁ。

前を歩いていた先輩ふたり

41ページで、藤堂と尾崎の両先輩が、選手を辞めコーチの道に進むことについて考えるひろみ。そこでは同時に、お蝶夫人蘭子と蘭子を思いながら、

でもまた素晴らしい先輩がふたりいる
だからがんばらなければ!

と言っている。しかし、20ページで既にお蝶夫人と蘭子は、桂コーチに特訓を受けている。しかも桂コーチからダメ出しばかり受けている。お蝶夫人の口から、

きつい…!こんなにきついトレーニングはしたことがない…!!

なんて言葉が出ている。

影の薄い同級生

42ページ。先輩として西校を訪れるひろみたち。在校生は、こんなことを言う。

すげえ!!藤堂尾崎大先輩だ!!岡先輩だ!!香月先輩や英先輩もだ!!

お分かりだろうか。ここに高校の3世代の先輩が並んでいる。ひろみの学年だけ1人で、他は2名。この意味は、ひろみの同級生はひろみに及ばなくとも、傑出した者が登場していないということだ。例えば、岡の学年の男女キャプテンは誰なのか?テニス王国の優勝記録は続いているようだが、ではひろみの同級生で男子シングルスで優勝したのは誰なのか?これらは描かれていない。テニス王国西校のキャプテンや全国大会の優勝者と言えども、ひろみの同級生は描かれない。ひろみの同級生で名前が確認できるのは、牧のみである。なかなか思い切った構成である。

神谷君の教育係

45ページで、神谷君の成長を見て、

神谷君…試合試合でしばらく見ないうちにまた一段と強くなっている
伸びざかりなんだなぁ…
がんばれ!

なんて言ってる。いやあ、確かに自分の試合で忙しかったけど、「がんばれ!」で済ますのではなく、もう少し言いようがあるとは思う。持っているものを全て伝えるように桂コーチから言われているわけだし。

お蝶夫人の脱落

49ページでお蝶夫人は、蘭子と2人での練習中、肉離れを起こす。そして、少し長いが蘭子に対し、名言を残す。

あたくしたちは もうひろみにはかなわない
けれど精一杯強くなってその精一杯強くなった自分たちを堂々と打ち負かしてほしかった!
あなただけがたよりです!がんばってください!

この気持ちは、

我々を踏み越えて世界へ飛び立たせる事のみが今先輩としてできる唯一のことだから!

という考えから来ている。なんと崇高なこと。そのために、藤堂たちにも隠れてトレーニングしていた。そしてその末の肉離れ。これはお蝶夫人としては無念。無念なのだけれど、これ、「エースをねらえ、」的には良いことである。これでお蝶夫人は、ひろみに対し負けたことがないことになるから。これは大きい。結局、お蝶夫人本人が主観的に、もうひろみには敵わないと言っているだけで、客観的にはまだまだ分からないかもしれないという含みを残せているから。「エースをねらえ!」におけるお蝶夫人の大きさが分かるエピソードである。

記者魂 千葉ちゃん

お蝶夫人入院の一報を受けた、藤堂たち。藤堂は、尾崎に、「(お蝶夫人のところに)すぐ行けよ 尾崎!」と言う。そして自分は桂コーチに会うと。そこで第三の男、千葉ちゃんが何をいうかと思ったら、

じゃあおれは緑川さんに会う!

とか言ってる。「じゃあ」じゃねーよ。緑川さんに会って聞けるのは、お蝶夫人負傷の状況と、なぜ負傷に至ったかの原因だけれど、それ聞いて千葉ちゃんどうしたいのか?その辺りは、尾崎がお蝶夫人本人の口から聞くでしょう。その裏取りということならば、千葉ちゃんのやろうとしていることは、単なる記者根性でしょ。まあ、仲間内ではそんなことしない方が良いと思うよ。

お蝶夫人用語

入院したお蝶夫人に尾崎が見舞いに駆けつける。今回の怪我だけでなく、最近の生き方について、尾崎は心配し、

あなたの強さが悲しいのです

と言う。それに対しお蝶夫人は、まず尾崎に座ることを勧め、その後、

海が支えでした

と返す。ここだけ抜き出すと、全然会話が成り立っていないことを言っている。2年前、尾崎に連れて行ってもらった海のことを言っている。これは、第10巻74ページからのくだりになる。

尾崎:お帰りですか?
お蝶夫人:ええ
尾崎:お宅までボディ・ガードをいかがです?
お蝶夫人:ひとりになりたいのです
尾崎:ぼくがいてもあなたはひとりです
お蝶夫人:(フッ)海が見たいのです

そして、海へのドライブ。ちょっとした磯で希望通り海を見た後、「帰ります」と尾崎に手を差し出すお蝶夫人。エスコートしろと。尾崎は少し驚くもエスコートする。この2年前の出来事をお蝶夫人は言っている。しかし、「支え」とは?この海を見に行くシーンの前は、千葉ちゃんが写真で賞を取ったということで作品を見に来ていた。そこに宗方コーチとひろみが到着したところで、お蝶夫人は帰ると言いだしている。別に不快な顔をしているわけでもない。なぜこれが「支え」になったのかは分からない。千葉ちゃん絡みのエピソードよりも、「ぼくがいてもあなたはひとりです」が琴線に触れたかもしれない。しかしこのセリフもまた難解で意味がわからない。

ウインブルドン行きの切符

結局、ひろみは、お蝶夫人とは戦わず、蘭子に勝利してウインブルドン行きの切符をつかむ。

そこで、83ページにて、

まだ2人の先輩がいると思っていたのに…とうとうわたしの前を行く人がひとりもいなくなってしまった…苦い勝利だ

とひろみは言う。前を行くの基準はテニスであり、ひろみの人生はこの時、テニスが全てとなっている。41ページ目で藤堂と尾崎が前方から消え、ちょうどそれと同じだけ経過した83ページ目でお蝶夫人と蘭子が前方から消える。

こうしみじみしているところで、ひろみのお母さんからひろみに、

ひらみ そろそろ夕刊くるころだからみてきてちょうだい

と声がかかる。なんということ!お母さん!このシーンでこのセリフはシュールすぎるわ。しかしこのお母さんのセリフで外に出るひろみ。で、走ってくる藤堂に会うと。お母さんのシュールなセリフは必然だったと。

矛盾しまくりの藤堂のセリフ

藤堂がひろみに知らせたかったこととは、"神谷君が義母に「かあさん」と言えたこと"である。雨の中走ってきて言うことか?それだけならまだしも、「おかしなやつだね あいつ 直接君の所にかければいいのに」なんて言ってる。オイオイ、お前こそ電話で済ませれば良いのに、雨の中走ってきてるじゃないか。しかも言い訳がましく、「ああ やっぱり電話ですまさず来てよかった」とか言ってる。

蘭子の心の解放

94ページ。ひとりで宗方コーチの墓を訪れる蘭子。そこで、

…心を開けば すてきな人ってたくさんいるのね 仁
今年あたり わたしにも いい人がみつかるかもしれないわね

なんて言う。結局宗方コーチのことを「お兄さん」と呼ばないのかというツッコミはともかく、こやセリフは重要である。ひろみにせよお蝶夫人にせよ、藤堂にせよ、宗方コーチの呪縛にハマった者は多いが、ここまでの話の展開で、それぞれ人生のパートナーとなりうる特定の人が見つかっている。しかし蘭子にはまだいなかった。つまり、宗方コーチに関わる主要登場人物で蘭子だけパートナーがおらず、呪縛を昇華させることができていなかった。この点につき、蘭子も一歩踏み出そうとしていることが描かれている。良かった。

お蝶夫人の誘導尋問

96ページから始まる、藤堂と尾崎の1級コーチ合格をひろみは喜ぶべきだということについたのお蝶夫人の誘導尋問。秀逸すぎる。

おさけ

まあ、最終巻なので飲みますね、お酒。桂コーチが断酒をついにやめる時が来たと。

また、酒席でもあるのに、ひろみに今度は飲んでくれるかと期待する気持ちが全くなく、これまでのことのお礼を言いたいが、どう言えば良いか悩んでいる所にふいに桂コーチに呼ばれ、

チャンスだ なんとかお礼をいわなくちゃ!

と、桂コーチの所に行き、両手をついたところで、器を差し出される。いやあ良い演出。ひろみが震える手で酒を注ぐのも良いし、それを桂コーチが一気に飲み、「うまいっ!」と言うのも良い。当然ひろみは涙顔になる。このあと、桂コーチによる励ましと、試合に来てくれというひろみの願いのやりとりがあって、ようやく「ありがとうございます!」と言えたひろみ。すぐ声を出して泣き突っ伏す。そこに藤堂が現れ、伏したひろみの頭を、
頭ぽんぽん
する。頭ぽんぽんってこの時代からあったのか…

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2度目の飛行機搭乗シーン

ウインブルドンへ向けてひろみは飛行機のタラップを登る。そこに「岡!」の声。もちろん第1部完の時とは違い、その声の主はその場にいる。第1部の時には、そのあと続く言葉は、宗方コーチのメモにしかなかったので、ひろみには聞こえなかったが、今度は違う。桂コーチが大きな声で言う。「エースをねらえ!!」と。それに対し、ひろみは「コーチーッ!!」と叫ぶ。これが良い。ここで言うコーチは、宗方コーチと桂コーチの両方を指す。そして、宗方、桂両コーチの「岡!エースをねらえ!」の声で物語は終わる。実際には、「岡!」「岡!」「エースをねらえ!」「エースをねらえ!」とちゃんと2人のコーチだから2回このセリフは書かれている。最後にこのマンガのタイトルを2回もコールして終わるとは、なんと言う構成。凄い。

「!!」の謎

よく分からないのは、最初、人ごみの中から桂コーチが叫んだ時は、

エースをねらえ!!

だった。しかし、最後にコーチ2人が言ったのは、マンガのタイトルと同じ、

エースをねらえ!

だった。この「!」の数の違いはどのような意味なのだろうか。単に勢いの違いとも思えるが…最初の桂コーチの叫びに2つの「!」が付いていたのは、自然に考えれば、桂コーチ自身の分に宗方コーチの分を加えたということだろう。こういうの、小技効いていて良い。