ひろみを取り巻く男たちは、本当に何も言わずに行動する。不言実行ということだが、自分のために動くのであればそれは構わないが、他者のために動くなであれば、それは全く迷惑なことである。
勝手に盗撮して、勝手に写真コンテストに応募して、勝手に入賞して、展覧会に来るまで、盗撮の事実を言わなかった千葉ちゃんというとんでもないヤツがいるが、そらがまだ可愛いくみえるくらいとんでもないヤツばっかな、「エースをねらえ!」の男たち。
理由を言わない男たち
宗方コーチは酷かった。とにかく、あれやれ、これやれとは言うが、それを理論的に説明することはない。言うことといったらダメ出しくらいのもの。その後を継いだ桂コーチもダメだった。断酒解禁した際も、なぜ解禁しようと思ったのか、結局、言わなかったし。ひろみが桂コーチの断酒でどれだけ悩んだのか分かっていないかもしれないが。まあ、断酒は桂コーチが勝手にやってることであり、ひろみがとやかく言ったり、一喜一憂すべきものでもないが。藤堂も宗方コーチと、ひろみとの付き合い方で、密約を交わしたりしてるからタチが悪い。
理由を言った男
宗方コーチが、唯一、言葉で説明したと思われるのは、宗方コーチが藤堂に言った、
女の成長を妨げるような愛しかたはするな
くらいである。しかしこれ、純粋なひろみの成長のための助言というより、藤堂への脅しとしか考えられないセリフである。俺のひろみへの愛は、成長を妨げないが、お前の愛は成長を妨げているだろ!と言っているようにしか、藤堂には聞こえなかったはずだ。しかし、そもそも宗方コーチは、ひろみのテニスコーチなのだから、ひろみがテニスで結果を残す限り、成長を妨げていないと言えてしまうが、藤堂にはひろみの成長を示すことのできるものが定性的にも定量的にもないので、言われても困るのである。その意味で、宗方コーチは、大抵は理由を言わず行動するが、常識ある相手、つまり正論を言えばそれにとらわれる人間に対して、策を弄するためには、言葉により相手をハメることをする人間だということである。大人びているとは言え高校生に過ぎない藤堂は、大人にまんまと騙されたのである。
理由を言わない女たち
理由を言わないのは女もそうで、第18巻19ページでは、西校卒業生を中心とした面々でテニス大会を企画したのだが、その地区の責任者であるお蝶夫人と蘭子が不参加。尾崎が、
我々によろしくたのむなんてふだんの2人からは考えられないよ
とまで言われる。ただしこれは、ウインブルドンへの切符を賭けた試合…そしてそれは2人がひろみにかなわないことを知るための試合のための猛特訓をするためであった。このため、ひろみに内緒で行うことが必要であり、ひろみと付き合っている藤堂およひその周辺には話さない方が良いのは当然であり、説明責任がないという点で、男たちと同列にはならない。
秘密の特訓時のお蝶夫人と蘭子の顔つき…これまで描かれてきた2人の顔つきとは全く異なる顔つき。お蝶夫人という仮面、宗方コーチの妹という仮面を脱ぎ捨て、純粋にテニスを愛する者として、自らの限界に挑み高みに達しつつある2人。このような表情となるためならば、周りに理由を言わなくとも許されるべきであろう。少なくともスポーツマンならば理解できるだろう。