Golden Time

時はお金で買えません

【エースをねらえ!】ストーリー上の主人公は誰か


「エースをねらえ!」は、単純化すれば1人の女性の成功譚となる。主人公はこの場合、岡ひろみである。この場合というより、「エースをねらえ!」の主人公は岡ひろみに決まっている。しかし、岡ひろみの成功過程を見ると、それよりも別な側面が目につく。

f:id:cure_researcher:20190718222756j:image

多くの人を踏み台にして成長するテニスモンスター。本人の成長は誰にも止められない。そして、その後ろには無数の夢破れたり、途中で変更した者たちが横たわっている。

1人の女を成功させる1人の男の話

宗方コーチ視点で見ると、これは男の執念、というよりも結局本人も自覚するように男の愛により、1人の女を成功させる話である。しかも、話の半分でその男宗方コーチは退場してしまい、ひろみは宗方コーチへの想いをもって後の半分を成長していくというかなり劇的な展開となっている。ひろみの方も自らの全てをかけて宗方コーチについていくが、宗方コーチとは別に、いわゆる恋人がちゃんといて、そのことを宗方コーチは基本的には認めているという点が「エースをねらえ!」の素晴らしさである。物語中にも、自分の果たせなかった成功をひろみに託したということが語られるが、これは結局は、親子関係と捉えることができる。つまり、宗方コーチがひろみを愛していると言うのは、父親として子供に夢を託すということなのである。親との違いは、託す相手を選ぶことができるという点である。

1人の女を成功させる多くの男の話

岡ひろみの周りには無償で助けようとする人間が多く現れる。宗方コーチ、藤堂はもちろん、桂コーチ、千葉ちゃん、竜崎理事長、エディ、レイノルズコーチも全てひろみのために奔走している(エディは途中から二重スパイみたいになっているけれど)。本当に多くの男がひろみに関わっている。そして、それらの男の想いを全て背負って、なおかつ結果を出し続けているのが、ひろみである。

お蝶夫人の挫折譚

お蝶夫人視点で見ると、これは1人の大天才の登場により、1人の秀才が挫折する話と取ることができる。ただし、挫折というより、折り合いをつけて生きて行かねばならない話と言った方が適切かもしれない。ひろみは大天才ゆえに、もう1人の天才である宗方コーチに見出されるまで、誰にも理解されていなかった。というより、入部早々、かつテニスの高校デビュー組なのにひろみを見出した宗方コーチが異常なほど見抜く力があっただけなのであるが。しかし、自らに憧れてテニスを始めたひろみに追いかけられ、抜かれることを高校で出会ってから大学までのほんの数年で味わわせられることになるとは思ってもみなかっただろう。二十歳そこそこでのこの人生体験はお蝶夫人という仮面を付けていなければ受け止められなかったのではないだろうか。

無数の挫折譚

実はこれが描きたかったのかもと少し思うのが、無数の少女の夢を絶つ話。物語中でも語られるが、岡ひろみは多くのテニス少女の努力を踏みにじってのし上がっていく。しかもあらゆる場面で他の選手たち対比過剰に優遇されて。第4巻のタイトルに至っては「例外メンバー岡ひろみ」などと、特別視がタイトルにまで表れている。この流れで、最初は音羽さんが苦しむ。しかしこれはまだ幸せだったのかもしれない。最終的には既に挙げたお蝶夫人が自らの感情に折り合いをつけて自らひろみの踏み台になる。藤堂はかなり早い段階から次の世代の踏み台になることを語っていたが、お蝶夫人はひろみの才能は理解しながらも、自らは追いつかれないように努力していた可能性が高い。そのような描写はラスト以外に見られないけれど。それでも最後は踏み台になることを受け入れる。ひろみにより夢を砕かれる最初が音羽さんで最後がお蝶夫人と、共に西校の1つ上の先輩であることがまた象徴的である。1人は部活レベルで早々に打ちのめされ、もう1人は世界へ羽ばたこうとした際に蹴落とされるという状況は全く異なるようにもってきている点がポイントである。そしてその間には多くの選手が倒れている。