物語の出来事が起きたのはいつなのだろうか。
この物語では、多く具体的な年、月、日のヒントが描かれている。それにつきみていく。
第一話 桜花抄
貴樹が手に取る書店に並ぶ時刻表(1995年2月号)から1995年と分かる。また、途中の小山駅の描写で「第6回小山冬まつり」の横断幕に、開催期間が1995年2月10日〜3月10日となっている。また、明里の手紙では3月4日の約束と言っている。さらに、劇中で、授業終業のチャイムとともに黒板に3月4日(金)と描かれている。貴樹の列車乗継メモにもこの日付が書かれている。しかし、舞台に近い宇都宮市の天気の記録(✳︎)からみるに、1995年2月〜3月に夕方から夜まで電車を止めるような雪が降った記録はない。3月4日早朝には雪は降っていたようだ。そもそも1995年3月4日は、金曜日ではなく土曜日である。前年1994年3月4日は金曜日であるが、しかし雪ではなく晴れである。この辺りなんとかならなかったかと思う。天気についてはひょっとしたら記録が間違っている可能性もあるが、曜日は明らかに実在のものと異なる。
✳︎:天気の記録
https://weather.goo.ne.jp/past/615/19950300/
第二話 コスモナウト
紙パックコーヒーの賞味期限の日付(99.10.18)から1999年の物語と分かる。
携帯電話が登場している。
第三話 秒速5センチメートル
柱に貼られたポスター(christmas2007)と流れるジングルベルから2007年12月24日以前と分かる。
また、水野さんから送られたメールの日付は、2008年2月2日15時15分となっている。これにより、水野さんがメールを出したのは、別れて2ヶ月近く経過したからということがわかる。だから水野さんのメールには「ちょっとお久しぶりですね。」と書かれていたのである。
山崎まさよし氏の「One more time, One more chance」が流れた後、細かいカットが続くが、その中で水野さんが携帯に手を伸ばす際に携帯に表示される日付が9月25日。そのしばらく後に、貴樹の部屋でベッドの両端に反対を向いて眠る貴樹と女性。その女性の近くにメガネがあることから、女性は水野さんであることがわかる。そして、2007年9月25日の前後には貴樹と水野さんの2人は別れの予感があったということになる。実際に描かれている時間は短いし断片的だが、「秒速5センチメートル」の中で、3人目のヒロイン水野さんについても恋愛に関する情報は提供されている。
時の痕跡
これほど日時に関する情報を細かに提示しているのは、約1時間の中に3つの話を盛り込んでいるため、エピソードが詰め込まれ、慌ただしくなってしまうのは避けられず、それを補うための情報と考えられる。この日時の情報は、初見で見つけ、認識することはほぼ無理であり、何度か観て、意味を自分なりに咀嚼しようとする人のためのものであろう。