これまで、アシトの憎まれ役として機能してきた阿久津であるが、第20巻でキャプテンを任されたことにより、自分で作ってきた壁を越えなければならない時が来た。そして、さらに高い壁が阿久津を襲う。全体的に阿久津メインの巻。
睨み合っているようで心通わせているかもしれない二人
絶好調の阿久津とベンチ外のアシト
この巻は、対磐田Uー18との試合シーンから始まる。ゲームの緊張感を保ち、キャプテンとして行動してはいる阿久津。一方のアシトは船橋学院戦以降ベンチ外。しかしその要求は厳しいため、もう少し1年に優しくすべきと、チームメイトから指摘されながらも、我を通すと宣言した阿久津。それにより、同級生のチームメイトは、阿久津を支え団結する。ここまでは、まあ、良いのだが…
阿久津第1の壁
阿久津なりにキャプテンとしてチームのことを考えだしたため、精神的に落ち着きがなくイラついている。加えて、アシトに対しても、当初の拒絶し突っぱねるスタンスから、イラつきながらも対応するスタンスに変わっている。これまでのチームメイトのプレーが気にいらないからという他人に対するイラつきではなく、自分に対するイライラ。これが阿久津を蝕んでいく。
阿久津は、彼なりに悩みながらもキャプテンの責任を果たそうとし、アシトにまで、内容的に的確なアドバイスをする。この阿久津のアドバイスのおかげで、アシトは、船橋学院戦から引きずったものを吹っ切る。そして、これにより、新たな敵となる青森星蘭の北野蓮の真の能力を理解する展開になっていく。阿久津素晴らしい。しかし、これ、アシトの成長にはなるが、阿久津にとっては、苛立ちの原因でしかないというのが阿久津の不幸。
ただし、阿久津の"的確な"アドバイスとはいえども、あの、他人の言動の中身は気にするが、言い方は全く気にしなさそうなアシトをして「今まで出会った人間ん中で最高に…教えるん下手や…」と言わしめるほどのアドバイス下手っぷり。とはいえアシトはアドバイス内容は評価していて、別なところで「言ってることはすげー勉強になるからなァ」と言っている。
阿久津第2の壁
母親のこと。ネグレクトされて来た母親であるが、入院したとなるとやはり動揺はあるようだ…とこの辺り全てこの巻で立て続けに明かされる。阿久津もおっちゃんに才能を見出されてスカウトされていたのか!
阿久津最高のアドバイス
阿久津がアシトに対し行った最高のアドバイスは、攻撃の時にできた俯瞰の目を守備の予測でも使えということ。これはまあ当然といえば当然なのだが、アシトはハッとする。しかも、アシト自身がそれをできるかとアシトに聞かれ、阿久津は「お前以外 誰がやるんだ?」と答える。無茶苦茶うまいコーチングだ。厳しい相手にこんなこと言われたらやる気が漲って、期待に応えようとするだろう。それがこれまで厳しく自分に当たって来た相手からの言葉ならなおさらである。
花との関係
アシトがようやく目覚めたっぽいんだけど、その感覚が「恋」ではなくて「親友」というのがね。まあ、進歩ではあるが。あと、戦う前にアシトに対する失恋を自覚したスポンサー企業のお嬢様である杏里が、すぐさま心を切り替え、なぜか縁のある冨樫の協力のもと、次に向かっている感じなのが素晴らしい。杏里は今ひとつキャラが謎であるが、まあ、少年スポーツもの漫画だから仕方ないか。
丁寧語
花との関係を親友と呼ぶアシトだが、花との普通の会話をしていて、ふと、可愛いという感情が湧いて出てくる。それにビビったアシトの取った行動は、その場を一時離れるというものだが、その唐突な行動の際、花に許可を得るために言ったセリフが、これ。
「あ、歩いてきていいですか」
丁寧語なのが良い。アシトの春は、雪解け間近だな。
次巻への期待
第21巻は、阿久津とアシトの関係や立場が微妙に変化しながら進み、次巻の青森星蘭高戦に期待が高まる。