愛情に基づく絆が今回のテーマ。三舟は、他人の絆の再確認の手助けはできるが、自分の父との絆を再確認することはできず、それだけではなく、ラストでは父との思い出がありそうなスツールを壊すという暗示的な描写まである。この構成上手い。
"赤と白"と"ブリオッシュの由来"
娘が出そうとしているパン屋の店の名は"赤の水玉"という意味、父の店の名は"白"という意味。しかし"赤の水玉"という名前は、言葉としてはそのままでは成り立たず、"白に赤の水玉"という形で「白に」という言葉を補わなければいけないということらしい。フランス語が分からないと気づかない。「赤い水玉の入った」だと落ち着きが悪いので、本来は「赤い水玉の入った白地」という感じか。個人個人の持つ常識の差で見える世界が違う。これは、ブリオッシュにまつわる逸話においても同じ。フランス料理にまつわる豊富な知識。三舟の探偵力はそこにある。
大野和真
少し神経質ぽいイタリア文学者を山本耕史氏が演じる。これは最高のような気がするが、会話に誰かが口を挟む度に反応する演技が、いちいち大袈裟すぎるのが気になる。これが良いとも言えるし鼻につくとも言える微妙なところを突いてくる名演技。
絆の話
今回三舟が解決したのは、
・パン屋の両親と同じ道を歩む娘が絆を再確認する話
・異国において恋心を抱き合う男が女との絆を再確認する話
の2つの話だった。絆を再確認する話を2つ持ってきたのには意味がある。この第8話の始めには、三舟の父が店に来ることになっていたが来なかったという話が置かれ、終わりには父親との思い出がありそうな古いスツールが壊れるシーンが描かれる。つまり、三舟の中で、父親との絆が壊れるイメージのエピソードが最初と最後に置かれているのである。その間に2組の絆を再確認する話が挿入されている。この再確認の話は勿論三舟が解決するわけで、三舟は自分の父との絆だけは再確認できないという形になっている。良く考えられた綺麗な構成。