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【フルーツバスケット】明確な力を持つ者が、力を持たぬ透に惹かれる理由


フルーツバスケットは、結局、普通なら、損な役回りで良くない運命で人生を終える、これといって優れた点がないと思われる主人公本田透が、数多の特殊能力を持つ者を引きつけ魅了する話である。

透は、普通の友人を持たない。

ちょっと意外なのだが、透の友人は全て特殊な力、能力?を持っている。高校時代に出会うことになる物の怪憑きである草摩家の面々はもちろんであるが、中学時代からの親友魚谷ありさと花島咲についてもかなり特殊である。ありさは元暴走族であるし、咲は謎の電波使いである。透の母親も暴走族の間では伝説の人という設定となっている。一方で、透は、何の個性もない。勉強やスポーツができる設定も、生徒会活動を熱心に取り組むといったものもなく、高校内における知名度という点では、普通以下の生徒である。そして、高校内での交友関係は、ありさ、咲という悪目立ちする2名が脇を固めているし、授業後はバイトをする必要から、部活動も行なっていない模様。このため、ある意味で透と同じような高校内のカーストで透と同程度の生徒との友情関係は結ばないでいる。

透自身がかなり特殊な人物

普段の生活態度等を見れば、透には特に優れた才能はないように思われるが、しかし、その置かれた環境と、環境適応能力は、普通の生徒が経験するものではない。幼くして父親を亡くし、高校では母親を亡くし、住む家を失ったところから物語は始まるが、透は何事もないようにテント暮らしを始めている。この過酷な環境で、こらほど前向きになれるというのは、普通ではない。かなり肝の座った何事にも動じない人物である。ただ、透が持つ人並外れた性格は、通常、人物の評価では、評価項目として表に出てこないものであり、透の特殊性が埋もれてしまっていると言える。

力を持っていても悩みも持っているから透に惹かれる

フルーツバスケットでは、透に惹かれる者は全て、力を持っていても、それと同時に悩みも抱えている。そして、その悩みを透が癒してくれるから、皆が透に惹かれるという構造となっている。草摩慊人が当初は透に対して強気でいたが、最終的に透に癒しを求めるのも、慊人の全能感の喪失がターニングポイントとなっている。慊人が十二支に対し絶対的な地位を確信できなくなったことが、慊人の悩みとなり、その悩みを癒すのが透となるという構成である。

透の力とは何か

透は、悩む人に対し、特にサポートをするということはない。透が行うのは共感と励ましである。悩む者以上に、透はその悩みを自分のこととし、エールを送るだけである。しかし、悩む者はその透の言動に、自分が何をすべきかを見出し、自分の力で悩みを解決していこうとするのである。単なる励ましではなく、その前に共感があることから、悩む者はその励ましを真摯に受け止め、前を向けるのである。ただし、この共感の過程は、慊人のケースで顕著であるが、最初は悩む者の反発を受けることも多い。なぜなら共感とは、他人の内心に入っていく行為であるからである。内心に他人が入ってくることに抵抗があるのは、普通の反応であり、透が、他者と共感する際にも、拒絶のリアクションを取ることは不思議なことではない。

共感力は評価しづらいから、クラスメートの評価が低くても仕方がない

以上から、透が持つ能力は、共感力であることが言える。しかし、この能力は、受身の能力であるため、説得力、問題解決力等の能動的能力とは異なり、一般的には評価されにくい性質を持つものである。このため、能力的に、ほぼ共感力全振りの透は、深刻な悩みを持たない普通のクラスメートにとっては、特徴のない平凡な子、場合によっては、相手に翻弄されるだけの主体性のない子という低評価となりうるのである。実際に透は翻弄されているのであるが、その翻弄ぶりが、大きな悩みを抱える者には、自分の感情に対する揺さぶりとして受け止められると解釈することもできる。というより、おそらくその通りなのだろう。だから透のことを知らない第三者から見れば、透の能力は理解できないであろう。