キャンディは、物語の冒頭の6歳の頃、トムがもらわれる際に、「あたしはひきとってくれるならだれでもいい」と言っている。また、アニーからの「さよならキャンディ」という手紙を受け取った際は、「パパってどんな人 ママのにおいってどんなの…」「あたしもパパとママがほしい…」と言っている。12歳でアードレー家の養女になるものの、結局、キャンディにはパパとママはできなかった。ウイリアム大おじさまの養女にはなったが、ウイリアム大おじさまの正体はアルバートさんで、ウイリアム大おじさまがアルバートさんであることを知る以前からの付き合いなので、ウイリアム大おじさまを父として甘えたりするのは無理だろう。また、アルバートさんに会う前も、ウイリアム大おじさまには感謝の言葉を伝えたいという言葉はキャンディの口からは出るが、パパとして甘えたいという類の言葉は出ない。
キャンディの親に対する考えの変化
パパやママに憧れを持っていた6歳から実際にアードレー家の養女になった12歳でキャンディは変わってしまっている。これは、その間に起きたことに起因するだろう。
他の年下の子がもらわれて行く
キャンディは12歳になるまでポニーの家にいたが、この間、アニーがもらわれて行った際にいた子供達はみなもらわれて行き、なぜかキャンディのみ残ってしまった。これについてキャンディは思うところがあったはずだ。親に対する憧れの気持ちが強くなったかもしれないし、諦めの気持ちが生まれてきたかもしれない。
ラガン家にひきとられたこと
ようやく行き先が見つかったと思ったら、養女ではなくお嬢様の話し相手であり、この辺りからキャンディは、パパやママの憧れや、甘えたいという感情よりも、自立することを意識し始めている。ただしこれは自分にはパパやママはもう無理と諦め始めたとも考えられるので、パパやママへの想いは残っていると思われる。
アンソニーとの出会いと別れ
アンソニーとの出会いは、タイミング的にキャンディが思春期に入った頃であり、親がいた場合、親からの自立の時になる。キャンディはアンソニーとの出会いにより、父母への愛を求めることから、異性の愛を求める方向に変わってきている。アンソニーと死別した際は、唯一頼れそうな大人であるアルバートさんに助けを求めることになる。そしてその後、キャンディが意識すらしないに関わらず、アルバートさんはキャンディを陰に日向にサポートする。
聖ポール学院時代
流石にアメリカとイギリスだから、アルバートさんの助力は無理だ…と思いきや、わざわざロンドンまであとをついてくるよこの養父。しかし当然キャンディはアルバートさんを父親としてみることはない。この頃になるとキャンディは、アンソニーのことを心に留めつつも学園生活を楽しんでいる。
肝心な時にいなかった
あれ?キャンディとテリィの聖ポール学院追放騒動の時、何でアルバートさん出てこなかったんだろう。テリィの父親の莫大な寄付金のおかげでテリィは学院に残れそうだったのと同様に、アルバートさんも寄付積めばよかったのに。そうすれば、偽の手紙の筆跡からイライザの仕業と分かり、これまたアルバートさんの一筆でイライザをアメリカに戻すという決断もできただろうに。なぜそれをしなかったのか。考えられるのは、こんな学院ではキャンディはダメになると思ったからということだが…なら、最初からわざわざ船に乗せて連れてくるなよ、嫌がるキャンディをロンドンまで連れてきて学院に入れたの自分だろと言いたい。しかしこの決断は結果的にはキャンディを不幸にする。この退学騒動がなければ、テリィが劇団の道に進むという未来も変わっていただろうから。
親子逆転
しかも色々有ってキャンディがシカゴに戻るとアルバートさんは記憶喪失になっていて、キャンディの勤める病院に運ばれる。
ここでなぜかアルバートさんとキャンディが同居するのだが、記憶をなくしたアルバートさんをあたかも親のようにキャンディが世話をする。親子逆転現象である。
アルバートさんのやったこと
父親らしいこと
結局、アルバートさんの行った父親らしいことは、金を払うということがほとんどで、愛情を注ぐということは皆無である。キャンディがアードレー家の養女として生活するためのお金は確かに出していた。そして、ラスト近くのニールとキャンディの婚約を自分の養女の意思に反する結婚はさせないと破棄した行為。これくらいしかアルバートさんがキャンディに行った父親らしいことは思いつかない。
保護者らしいこと
ただし、父親というよりキャンディという人の成長を考える保護者という面を考えると、状況は変わる。アルバートさんはキャンディがラガン家でいじめにあっていた時から色々手を差し伸べている。ただし、ラガン家の使用人としてキャンディが幸せになれるのならば、それはそれでキャンディの人生と考えていたようで、多少いじめにあっても静観している。メキシコに売られるというどう考えてもまずい事態になって初めて手を出す。これは、分をわきまえた人生を送るには必要な静観である。アンソニーの死において取り乱した時も、テリーの精神が本当に危うくなり、テリィの実母エレノアが心配するが見守るしかない事態にまでなった際には、テリィ救うためにキャンディを誘導してテリィを立ち直らせている。そしてニールの結婚騒動の干渉である。アルバートさんはキャンディの人生を左右し、かつキャンディが望まない事態に対しては、ちゃんと手を打つ。それまではハラハラさせるが、一線は維持している。その点が、愛情を注がないので父親としては機能していないが、保護者として素晴らしいところである。それ以外は、基本キャンディの自主性に任せている。看護学校に入った際も任せていたし、仮に従軍看護婦に立候補しても恐らく何も干渉しなかったであろう。自分で生きていくことを学ばせたと言える。また、キャンディの影響により、アードレー家の子息たちも地に足ついた生き方ができるようにとの考えもあったと思われる。こちらについては、ニールがキャンディに惚れるところまで行ったので、成功したと言えるが、そのためにステアを戦死させてしまったともいえる。
結局
結局、キャンディが幼少期に思った「パパってどんな人」という疑問はキャンディの中では恐らく解決せぬまま物語は終わってしまった。母親については、何かあると実家に帰るような感じでポニーの家に度々帰っていることから、ポニー先生とレイン先生がキャンディにとっての母親ポジションなのだろう。その意味で、キャンディとアニー以外のポニーの家からもらわれていった子たちのその後は物語中に一切出てこないが、幼少期に育ち戻るところがあり、かつ戻ることのできるキャンディは、結果的には幸せな方だった可能性はある。もらわれていった先が悲惨で戻ることもできない子もいただろうから。