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【北斗の拳】第6巻 アミバ(偽トキ)とは誰か①


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アミバは思い入れが強いので、2回に分けます。こちらは前半です。

第1話 乱を呼ぶ星の巻

いきなりレイがやってくれます。
「天空につらなる七つの星のもと
  …(中略)…
 長男ラオウ次男トキ三男ジャギそして末弟ケンシロウ それがおれが調べた北斗神拳に関する全てだ!」とか言っている。いやいや、どうやって「調べた」んだ。この時代インターネットも無いだろうし。そもそも北斗神拳は「陰」だから情報は本人に聞く以外にないのではないだろうか。
しかしレイが調べた以上に市井の人は北斗神拳について知っているのがまた、このマンガの良いところ(一部デマもあるが)。そもそも第1巻第1話、つまり北斗の拳について読者は全く知らない時点で、既に市井の人から凄い知識が語られているではないか。「ほ…北斗神拳」by村の長老(第1巻第1話)。拳を見ただけで北斗神拳とわかる長老って…一子相伝の暗殺拳の意味がない。
しかも、「中国より伝わる恐るべき暗殺拳があるときく… その名を北斗神拳…」「一挙に全エネルギーを集中し肉体の経絡秘孔(ツボ)に衝撃を与え表面の破壊より むしろ内部の破壊を極意とした 一撃必殺の拳法」ということまで知っている。

レイ…お前の調査力って逆に大したことないな。長老以下だ。「それがおれが調べた北斗神拳に関する全てだ!」なんて言ってて恥ずかしくないのか?
大体いつ調べたんだ?

しかも、レイの情報には間違いがあり、リュウケンが養子として迎えたのは、途中で追放されたキムがいるから正確には5人だし。全くダメだ、やり直し!


尚、この第6巻第1話でいよいよアミバ(この時点ではトキと認識されている)の登場だ。
といっても2コマだけで、とりたてて面白いところはない。しかしこの「北斗の拳」のストーリー。ジャギを第5巻の最後で倒した後、第6巻の第1話で早くもアミバを出すとはもの凄い話のスピードだ。続けて読める現在の読者はもちろん、週刊少年ジャンプで毎週読んでいた読者でさえそのスピードを感じることができたと思う。次から次へとでて来る強そうな者たちを。強いとは言ってない。

第2話 狂気の堕天使!の巻

ケンシロウがトキ(=アミバ)についてこんなことをいう。
「…あのトキが…ありえない!あのトキが殺人鬼に変身するなど!」
このセリフ、「おれは生まれた時すでに暗殺者だった」と自分で言うような人間に言われたくないセリフである。お前、自分がどういう拳法の継承者になってるのか知ってるのか?そもそもトキは、北斗の掟に逆らって、継承者レースに敗れた後も北斗神拳使ってのうのうと暮らしているんだぞ。そこ、ケンシロウは分かってないね。

「殺人鬼に変身した」人間と「生まれた時すでに暗殺者だった」人間はどっちもどっちだと思うがケンシロウの中では明確な違いがあるのだろう。
この差を理解するのは、現代に生きる普通人には難しいと思われるが考えてみよう。

「殺人鬼」というのは殺人自体が目的化した人間だと言えるが、アミバはどうであろうか。
アミバの場合、殺人自体が目的化しているわけではない。アミバは真に「新しい秘孔の究明」を求めており、それに付随して木人形(デク)を死に至らしめているのであるからだ。マンガのエピソード上、殺そうとして殺したのは手遅れで苦しむユウという子供だけだ。しかしこのケースは微妙で、安楽死と取れなくもない。
その証拠に、アミバの「フ…その子供が 手遅れだったのは きさまも わかったはず!おれの手で 安らかに死なせてやっただけ!」というせりふに対しケンシロウはなにも言及していない。つまり、苦しんでいた子供に対し、楽になることもなく、そのまま死んでいくのを見るのか、それは親にとっても本人にとっても苦痛なので、苦しみから解放してあげるのかの選択だと言いたいのかもしれない。しかし、実際のところ、両親は殺されて苦しんでいたけれど。
ユウの父親にも「この場で 死んで みせてくれ!」と言って秘孔を突くが、それは「秘孔の研究を手伝って」もらうために行っているのであり、研究の一環として行っているのだから殺人自体が目的化しているわけではない。
故にアミバは「殺人鬼」ではないのではと思う。

一方、ケンシロウのいう「暗殺者」とはどういう意味だろうか。相手および他人に知られないように殺す者だと思うがそこに目的は必要ない。あっても良いだけである。

ケンシロウは確かに自分や弱者向かってこない人間を倒すことはない。ただし、ここでいう弱者とは、ケンシロウの主観による、ケンシロウ基準の弱者である。
しかし、挑発して向かってこさせているケースは枚挙にいとまはない。
これはどういうことか。
ケンシロウは、向こうが自分に向かってくるから倒したんだと、一応正当化して相手を倒しているが、それは自招行為であり、一方的に相手が悪いというわけではないことも多い。
逆に、倒したいからわざと挑発して向かってこさせているのであれば、最初から倒そうと思って倒しているといわれても仕方がない。
しかも、自分が北斗神拳の伝承者で自分の拳の能力をよく知っており、相手からの大抵の攻撃を避け、相手に一撃を加えることが可能だと知っての上の行動だ。
ボクサーの拳(こぶし)は一般人に対しては凶器であるとされるように、北斗神拳伝承者の拳は一般の力持ちや兵に対しては、やはり凶器とされるべきであろう。
北斗神拳伝承者がわざと挑発して向かってこさせる行為は、殺人目的の行為と言える。

以上から、ケンシロウとアミバのどちらが「殺人鬼」といえるかといえば、ケンシロウと答えたほうが正しいといえるのではないか。

ということは、「…あのトキが…ありえない!あのトキが殺人鬼に変身するなど!」の意味は普通人である我々が理解する殺人鬼の意味とは異なると考えたほうが良いと思われる。
例えば、「あのお人よしで人ひとり殺せなかったトキが、おれのように易々と殺せるように変身するなどありえない」という解釈をしても、まったく荒唐無稽だとは言えない。なんとなれば、「おれのように、人を殺すことをなんとも思わないレベルまでは当たっていなくとも、過失以外で人を殺すことがあるなんてありえない」ということかもしれない。

第6巻 第4話 悲劇の再会!! の巻

アミバがやってくれる。
現時点の我々は既に奇跡の村にいるのはトキではなくアミバであると知っている。
その目で見てみるとちょっと苦しい点が多々ある。
独り言でこんなことを言ってみたりする。
「フッフフ… ケンシロウめ あのふたりを倒すとは少しは成長したらしいな」
ウ―ム。
このセリフは実の兄のものとしか思えない。
兄のフリをした偽者ではなかなか吐けるものではないし、独り言として言う意味がない。

そういえば、そもそも本当のトキはどこへ行ったんだ?
奇跡の村をどうやってアミバはトキから乗っ取ったんだ?

アミバは最後は結構間抜けに死んでいくが、実はこの巻においてケンシロウの百烈拳(らしきもの)をたやすく受けている。このときのケンシロウの顔はかなり本気度が高いのでアミバは相当な拳の能力がある。自身で天才と称する資格ありだ。なんといっても百烈拳(くどいが多分)はシンを倒した技なのであるから、シンよりは実力が上ということになる。
このときケンシロウは「おまえは昔のトキではない!!」と言ってからアミバに向かっている。

ただ、次の技の出しあいにおいて、互いに人差し指を相手の眉間に出すシーンでは、ケンシロウは「こ…この技の切れは…」と言っている。
あまりに微妙なセリフだ。
体調が優れないはずなのに昔と同じかそれ以上のキレだと思ったのか、こいつ全然だめじゃん、こりゃトキじゃねーなと思ったのかもしれず、どちらにも取れるセリフである。

第6巻 第5話 悲劇の星の下に! の巻

ケンシロウは一層激怒し「きさまは断じてトキではない!!」と言ってかなりの本気モードでアミバに向かうも、服と頬を少し切るのみでアミバはかわす。やはりアミバは天才だ。「たしかに鋭くなった 服だけ切らせるつもりが……」と余裕の発言をアミバはしているのである。

と、ここで少し考え直す必要がある。
トキはケンシロウの命の恩人である。いくら今は極悪人となろうとも、なかなか恩人を倒すことはできない。若い時にはあのジャギに対してさえとどめをささなかったくらいのケンシロウのメンタルなのだから。
それを考慮して再度「悲劇の再会!! の巻」から見なおしてみたい。
「悲劇の再会!! の巻」では、「おまえは昔のトキではない!!」と言っている。そして、次の「悲劇の星の下に! の巻」では、「きさまは断じてトキではない!!」と対になる言葉を発している。
そして前者では、アミバはケンシロウの技を完全に防いでいる。そして後者では、ケンシロウは、アミバの予想に反して、アミバの頬を切っている。
これはどういうことか。

ケンシロウは、当初は、命の恩人(らしき人)に手加減しているのではないだろうか。
「おまえは昔のトキではない!!」の時は相手を傷つけないように百烈拳を、「きさまは断じてトキではない!!」の時はもう少し進めて頬を切る程度に技を出していると考えられる。

「おまえは昔のトキではない!!」と「きさまは断じてトキではない!!」の間にケンシロウは「こ…この技の切れは…」と言っている。技の切れがなんとなくトキのものではないと感じたのであろう。ただそれが確認できなかったので、次はもう少しレベルを上げた攻撃をした…そう考えられないか。

いずれにせよ、
「おまえは」と「きさまは」、「昔のトキではない!!」と「断じてトキではない!!」の対比が、繰り出す攻撃のレベルとシンクロしている。なんて素晴らしい演出!
しかし少年ジャンプ連載中にこれに気づいた人はいたのかなあ。

この点では、状況証拠が更にある。
「おまえは昔のトキではない!!」の後に百烈拳を出しながらやはりためらいがあったようで、つぎの蹴りでは服と頬だけを切ってみる。そこで大変な事態になる。アミバの背中に「昔ケンシロウを救った時の傷」があることを発見してしまうのだ。ケンシロウがつぶやく言葉、「ば…ばかなこれは!!」はケンシロウの迷いを表す。「きさまは断じてトキではない!!」と思ったがやはりトキなのかと更に迷ってしまう。ああ、この微妙な感情の推移。

ひょっとしてひょっとしたら、この話を描いている時点では「本当にトキは悪人になった」というシナリオがまだ残っていて、編集者と話の展開を調整していたのではないだろうか。だからどっちにでも転がれる話になっているという。邪推か?
しかし一概にそうとも言えない。
ケンシロウに似せて胸に傷をつけたジャギの話のあとに今度はトキに似せた傷を背中につけたアミバが出てくるなど、かなり安易な感じもするから、もともとはそんなシナリオなどなかったと考えられなくもない。

この背中に傷のエピソード、実は非常に微妙なのだ。
この話は、まだ幼さを残していた時のケンシロウが、滝にうたれる修行中、上流から巨木が落ちてきたのをトキがかばい、トキは背中に大きな傷を負ったという話であるが、微妙だと言うのは、どうやってアミバはこれを知ることができたのだろうか。トキでさえ北斗神拳について調べてもたかがしれている程度しか情報を得られていなかったのに。後にアミバの秘孔探しはラオウに伝えるためだとかいうこじつけ話が出てくるが、それであれば一応ラオウからトキの背中の傷のエピソードを聞くことはできるが、それも眉つばだ。トキはラオウの実弟であり、その実弟のフリをして悪事を働く者を積極的に応援するとは思えない。どちらかというと、「アミバの秘孔探しはラオウに伝えるため」という話がおかしいとすべき。であれば、やはり一子相伝の暗殺拳である北斗神拳修行中のエピソードをアミバが知っているのは不思議だ。可能性があるのは、アミバは一度トキと会っている。アミバの治療を止められたシーンだ。そこでアミバはトキの背中の傷を見ることができた可能性はある。
しかも結構特徴のある形の傷なので、その後も長年修行を共にしてきたケンシロウには背中の傷が本物か偽物かは容易に分かるであろう。
であれば、アミバの背中の傷に対してケンシロウは「ば…ばかな!!」と言っていることから考えて、やはり本物か本物に限りなく近いのであろう。傷の正確な形まで知ることは普通無理だと思うが…。レイが調べた内容と濃さが違い過ぎる。これも天才かつ努力家でもあるアミバの能力か?