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【北斗の拳】第12巻 トキ暴走止まらず


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第1話 捨てえぬ心の巻

言い訳するトキ

遂にトキは独り言の域を越え、ケンシロウにも自らの拳を使いたい欲求を吐露する。
トキのセリフを発言準に並べてみる。
①「本当はこうやって子供達や病に苦しむ人たちとともに一生を終えたかった」
②「…男……一度拳法を目指した男の本能が動いた!」
③「それにも増してわたしには逃れ得ぬ宿命が…」

このセリフからはトキがそれほどの聖人ではなく普通の欲を持った人間であるとわかる。
別に聖人でなければいけないのではなくその方が人間らしいのだけれど。

本当はトキは②と言いたいだけなのだ。
ストレートに自分の欲望を語っている、「拳を使いたい」と。
そもそも題名が「捨てえぬ心の巻」である。
そのものずばりという感がする。

しかしそれでは、北斗神拳の伝承者争いに敗れた者としてあまりに破廉恥であるため、①と③という文章で前後をはさんで破廉恥さを弱めようとしている。

①では「本当は」という語がポイントとなる。本当は弱者とともに歩んでいきたいのだが…と言い訳しているのである。そしてこれはトキの理性から出る言葉である。その後、②で本能という言葉を使うことで、理性では抑えられない本能で、拳を使いたいと言っているのである。言い訳がうまい。

ラオウ越えの方法

確かにラオウを越えるには、自らの拳を復活させるというのもその1方法であろう。
しかし、方法はそれだけであろうか。
北斗神拳の掟を破るということと、完全に個人的問題である宿命とを比べて後者のほうが強いというのであるが、それじゃあ伝承者争いに敗れても、いくらでも拳を使用できてしまうことになる。
トキはラオウ越えの手段として北斗神拳の使用を考えたようだが、他に方法がないか考えるべきであった。
ラオウ越えをラオウを倒すことでしか達成できないと考える安直さ。北斗神拳は暗殺拳であるがため倒すことでしか越えたことにならないという価値観となっているのだろうが、良く考えれば他で越える方法はある。

ヒントはリンとバット

その答えはリンとバットにある。
この二人は拳が使えるというわけではない。個としては普通の肉体しか持っていない。
しかし彼らはケンシロウが去った後民衆を率いて闘っていた。
これこそトキが行うべきことだったのではないか。

「子供達や病に苦しむ人たち」を救えばその家族から感謝されるし救われた子供自体が成長し立派な人間になる。こうしてトキに癒された者、家族がトキの周りに集まりトキの徳に基づいた民主的自治組織ができあがるだろ・・う。
そんな組織できるわけないだろうと言うなかれ。現にアミバでさえそのような国家形態の組織を構築していたではないか。

トキが天を取る方法

そして、ここが重要なのであるが、この組織が大きくなればそれは「天」を取ったことにならないか。
つまり、トキが兄越えするにはラオウを倒さねばできないわけでは無い。
ラオウの野望である「天」を取ることを阻止する。もしくは自分が「天」を取る。それでも兄を越えたことになるではないか。

結局は本能

結局、「本当は…」とか「それにも増して…」とか言い訳しているけれど、「本能が動いた!」というだけの話。
本能で行動してるから、兄を越えるというテーマに対しては、兄自体を倒すことしか考えられない、しかし兄を倒すには封じたはずの北斗神拳を使用しなければならないというトキの悲しい一面。
トキに思考力があればと悔やまれる。

原作者の工夫

しかしそうではあっても物語上はトキは「人格者」でなければならない。そこで原作者武論尊はトキを弁護するかのようなエピソードをこの一連のトキの掟破り決心のエピソードと並行して描いている。
北斗神拳の先代伝承者リュウケンと伝承者争いをしたコウリュウをラオウが倒すというのがそれである。
このエピソードのポイントは、
 ①コウリュウは北斗神拳の一子相伝を守るため自らの拳を封じ続けてきた
 ②ラオウという北斗神拳の掟を破る者が出たためにやむを得ず封印を破った
の2点である。
重要なのは、コウリュウがラオウが現れるまでは拳を封じていたのが、次世代の伝承者争いで敗れた者が掟を破り拳を封じないのを見て掟を守るためだけに敢えて封印した拳を使い立ち上がると言う事実である。
北斗神拳を封じてきても北斗神拳の掟を守るのに必要であれば使うことは悪ではないという前例を既に立てているのである。
前例があるからトキが同様に封印をといてもそれほど抵抗無く読者は受け入れるだろうとの原作者の意図が感じられる。
トキも北斗神拳の掟を守るために北斗神拳の掟を破ったのである。

トキも掟破りの輩である事実は忘れてはならない

一方でトキは、色々な局面で北斗神拳を使用してきた。病人の治療もその1つ。幽閉されていたときの有情拳もそう。サウザ-とケンシロウの闘いの時もそう。
トキは前から結構自由きままに北斗神拳を使ってきている。
そして遂に北斗神拳を使って闘いたいとまで言いだした。
結局、エピソードは並べて描かれているが、コウリュウは北斗神拳の一子相伝に殉じたのであり、多少は正当性があるが、トキは純粋に北斗神拳を使って戦いたいという欲求が表に出てしまっている。
色々飾っているが、トキには正当性が無い。

おかしな行動に出るケンシロウ

このトキのエピソードに対しケンシロウもおかしな行動に出る。
トキが自分の技でラオウを倒すと言うのをやめさせるために、自らと手あわせしようというということになってしまう。
なんじゃそりゃ。ケンシロウは伝承者としてトキが勝手に北斗神拳を使うのを封じなければならないだろうに。
挙げ句には相討ちになってしまって、ケンシロウは「病におかされていなければトキ……」なんて言ってトキが北斗神拳を使用することを認めてしまっている。伝承者としてケンシロウは甘すぎる。

第2話 あの日よりその悲劇は! の巻

トキはリンとケンシロウを伴ってラオウとトキの両親の墓にやってくる。
ここはトキ、ラオウが生まれ育ったところらしい……と、この話は将来的に矛盾したエピソードになる。
後に明らかになる話であるが、ラオウ、トキは幼いケンシロウを抱いて海を渡ってきたはずで、今の舞台から遠くはなれた場所のはず。どうやって海渡ってきたんだろう。
さらにおかしなことに、両親を無くしたラオウとトキの元に北斗神拳先代のリュウケンが現れるが、あれ、海渡ってないしケンシロウがいない。
いくらなんでも話が違いすぎ。しかし、これは全巻通して一気に読んで分かることで、週刊誌連載時にはこれでよい。読者なんてせいぜい前後5話くらいしか覚えてないから週刊連載時には話が面白ければ何ヶ月も前の話となど整合が取れていなくともよいのだ。

第3話 遠い誓い ! の巻

拳の才能に目覚めた幼少時のトキに北斗神拳先代のリュウケンが言う。
「北斗神拳は一子相伝 おまえたちふたり同じ道を歩めばいずれ片方は拳を封じられ倒されねばなるまい それでもかまわぬのか!!」といっている。しかし、ケンシロウの登場で二人とも拳を封じられ倒されねばならないはずの人間になってしまった。その二人が伝承者がケンシロウに決まった後に北斗神拳で勝負するなど北斗神拳の一子相伝性を完全に否定する行為ではないか。
これではトキとラオウが闘うことは正当な行為とはいえない、そこでこの闘いに正当性を持たせるために幼少時のラオウにこんなことを言わせている。「いいかトキ もしオレが道を誤ったときは おまえの手でオレの拳を封じてくれ!!」これで初めて二人の闘いがやむを得ぬものとされるのである。今やラオウは封じるべき北斗神拳を使って天を取ろうとする。これを道を誤ったと言わずして何を…というわけでトキの手でラオウの拳を封じる必要が生じたのであるが、道を誤って北斗神拳を使うラオウの拳を封じるのに自分もまた封じるべき拳を使うのはなあ…しつこいか。

第4話 めざめる血 ! の巻

ラオウの頭上に死兆星が・・・・・。
しかし、なぜ死兆星が輝くときの効果音が「ドン」なんだろう。
その後、第5話でトキがラオウに決定打を打たれた時も「ドン」っと鳴って(?)いた。
たしかに、空の星がいきなり光りだしたときに、太鼓の「ドン」という音はぴったりだと思われるが、現実問題で星が輝いて「ドン」となることは絶対に無い。
にもかかわらず繰り返し効果音として使用するのは秀逸だ。

では、空の星がいきなり光りだしたときに、太鼓の「ドン」という音はぴったりだと思われるのは、なぜか。
おそらく打ち上げ花火を連想するからではないのだろうか。
夜空にいきなり輝く光と大きな音。
これが、死兆星が輝くときに「ドン」と鳴っても違和感を感じるどころかぴったりと感じる理由だろう。

第5話 永訣の時 ! の巻

闘頸呼法・・・・トキがラオウに対し使用した北斗神拳奥義。呼気とともに体内に全闘力をたくわえ吐気とともに一気に拳に集約する剛拳の呼法。
さあ、どうしてこんな名前の奥義が出たかというと・・・・・
「永訣の時(とき) !」でトキ(とき)が吐気(とき)とともに全能力全闘力をかけた戦いを始めた・・・・
という言葉遊びがしたかったからであろう。
う~ん、全くの親父ギャグであるがこういう遊びがまたなんとも味わい深い。