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【エースをねらえ!】第1巻 鬼コーチ 宗方 仁の巻


1973年連載開始の女子スポ根マンガ。この第1巻について見ていく。尚、巻数ページ数等は当時出版されたマーガレットコミックス版に基づく。

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オープニング

登場人物の紹介は対校戦を描くことで行われる。藤堂先輩の試合とお蝶夫人の試合を描くのみで当座の主要登場人物と背景の説明がなされる。コンパクトなオープニングである。

岡ひろみの性格

初期の段階ではウジウジしている印象の岡ひろみであるが、13ページで自らを短気だと言っている。

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【図1】短気を告白する岡ひろみ

ただし、これは1巻で確認できて、91ページにて、「何かと特別あつかいされてる人だから」とおそらく同級生に言われた際に、即座に「どういう意味よそれ!」と言い返しており、対人関係、特に上下関係において弱気な反面、確かに短気な性格でもあることがわかる。これは、つまり昔の体育会系的性格であるということ。それは、後々分かっていくのであるが、第1巻では、まだ弱い印象が前面に出ていて、短気な場面は少ない。

お蝶夫人の性格の悪さ

22ページで岡ひろみが地区大会出場選手5名に大抜擢される。これには本人も、外された音羽さんも周りも驚く。しかしお蝶夫人は驚きはしたであろうがその描写はなく、代わりにキャプテンをつついて宗方コーチにクレームを入れさせるシーンが描かれている。

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【図2】キャプテンをつつくお蝶夫人

自分では手を下さず、他人にやらせるような人なんだな…お蝶夫人。キャプテンの顔の陰は、音羽さんが選に漏れたからというより、お蝶夫人にコーチにクレームしろと嫌な役を押し付けられてできた陰に見えてしまう。これはかなり嫌な女である。

お蝶夫人の行動原理

ここでお蝶夫人は岡に対しても反感を持つのであるが、なぜか35ページで特に理由も描かれることもなく「ひろみ…」と陰ながら穏やかな顔で言うし、49ページで自らのラケットをあげるとまで言う。ここの理解が難しいが、35ページについては、その前の30ページにおいて、夕暮れのテニスコートで泣いていた岡に藤堂が声を掛けるが、それを偶然お蝶夫人が目撃していること、49ページにおいては、その直前にお蝶夫人は藤堂と練習をしており、悲しい顔をする岡に対し、藤堂は「ベストをつくせばいいんじゃないかな」と励ます。そして、お蝶夫人がラケットをあげると言うのはその直後である。これはつまり、お蝶夫人の行動原理には藤堂がどう考えているかが重要な働きをしているということである。ただし、ここまで読む限りでは、お蝶夫人は藤堂に恋愛感情を持っているという感じではない。その場合は隠そうとしても嫉妬的な感情が出てくるはずであるが、それを感じさせない描写となっているから。どちらかというと、藤堂のことを同志として見ている印象である。生徒会長、副会長であり、テニス部でも男子副キャプテン、女子キャプテンを務めており、恋愛感情を超えた関係のように描かれている。ただし、お蝶夫人には藤堂に好かれたいという感情はあるようで、図2のような素振りは藤堂の前では見せず、藤堂の考えを察して発言している描写が多々あり、藤堂に対しては物分かりの良い人を演じている。

岡ひろみの恋心

お蝶夫人が恋愛感情を極力見せずに藤堂との関係を維持し続ける中、岡ひろみは、コレである。

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【図3】分かりやす過ぎるひろみの感情

99ページで色々あって落ち込んでいるところ、藤堂に家に送ってもらう際の岡ひろみの表情の変化。花開いちゃってるよ。会話の描写なし、擬音もなしであるところが、却って心臓の鼓動を想起させる。素晴らしい場面。

お蝶夫人も人の子

162ページで遂にお蝶夫人の本心が独り言として語られる。

藤堂さんとのあいだにわりこむことはゆるさない

これ以上コーチを独占することも!

はじめてあったときのままならかわいがっていられるのに

上達するのが早すぎる

どんどんあたしにむかってのびてくる

これは理解できる。テニスという公の部分と、藤堂との関係という私の部分ともに驚異的スピードで近づいているのが分かるのだから。それも可愛がっていた妹分に。しかしこのコマの次が、岡ひろみのカットになっていて、

おいつきたい いつかきっと!

なんて言っている。ひろみの方もお蝶夫人が射程に入っていることを意識している。こちらはテニスについただけと思われるが。かなり怖い描写である。そして、2ページ後には、

いくら技術がおいついてもあれほど魅力的にはなれないな

なんて言っている。もう追いつくの前提か!どれだけ強心臓なんだ岡ひろみは。

有言実行

しかし岡ひろみは有言実行。第1巻終盤にして、既にお蝶夫人とシングルスの試合で死闘を繰り広げる。

公私混同

お蝶夫人は個人としての岡のことは、好きなままである。これは宗方コーチとの関係や藤堂を介した関係では色々問題があっても一貫しているところがお蝶夫人の偉大さである。

お蝶夫人語録

怪我のお見舞いの花束に対するお礼の言葉として、

バラの香りのお礼よ

という発言をしている。「バラの花束のお礼よ」と言わないところがお蝶夫人のお蝶夫人たる所以である。実体のあるバラの花そのものではなく、移ろいやすい香りに対して礼を言っている。この辺りがお蝶夫人の育ちの良さなのだろう。つまりこれが、ひろみの言う「いくら技術がおいついてもあれほど魅力的にはなれないな」なのである。