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【秒速5センチメートル】3人の名前について


主要登場人物3人の名前について考えてみる

主要登場人物3人の名前

物語の主要登場人物の名前は以下の3人である。
遠野 貴樹(とおの たかき)
篠原 明里(しのはら あかり)
澄田 花苗(すみだ かなえ)

植物に関する文字が入っていることについて

各人の名前には植物関連の文字が入っている。一方、動物をイメージさせるような文字はない。

貴樹は「樹」、明里は「篠」「原」、花苗は「花」「苗」。

樹木と草花

植物は基本的に根をはる生き物なので、自らの意思動き回ることはできない。しかし、人により移植等されることはある。草花は、自にどこにでも行けるわけではないが、毎年種子となって今の場所から遠く離れた場所に行ける可能性はある。「樹」「篠」(竹の一種)は、移動できないが、「花」は毎年移動できる可能性はある。しかし「苗」は移植されることが前提のものである。

コトが起きる前までの状態

ここで貴樹、明里、花苗において、コトが起きる前の状況を見てみたい。つまり、貴樹と明里はにとっては明里の引越し、花苗にとっては貴樹に告白すると決めた日より前の状況である。
貴樹と明里は転勤族の子なので、親の都合で引っ越しを繰り返している。自らは「樹」「篠」として根を張ろうと思っても、親の転勤で無理やり移植されてしまう。一方の花苗は、高校卒業後の進路について決められないまま、「ひとつずつできることからやるの」と言っている。樹や篠よりは自由度はあるが、結局自らの意思が強いわけでなく流されて行く面は残る。これが、「花」という文字が与えられた意味であろう。また、花苗は貴樹が高校卒業後東京に進学することを知っているが、自分も東京に進学したいとは口にしない。モノローグでさえ口にしていないので、花苗の進路の選択肢に東京に行くことが入っているか不明だが、花は種子で遠くに行くこともできるが、花苗は「苗」でもあり、どこに根をはるかは、苗を移植する者つまり親の意思によるものであり、花苗の気持ちのみではどうにもならないのである。

「樹」と「篠」と「花」

イメージ的には、貴樹と明里が移動を繰り返しているので、どちらかと言えば草花で、花苗はずっと鹿児島にいるので、樹木であるが、名前に埋められた文字は逆になっている。これは、貴樹と明里は、根を張って同じところにいたいと願っているにもかかわらず、引き離されたということを意味しているのかもしれない。一方の花苗は、毎年新たな場所に根を張るが、その場所は前年とそれほど変わらないという点が、告白しようとしてできず、時の流れるままに任せて生きる決断をした花苗の生き方を表すものかもしれない。

「野」「原」について

共に「広い平らな土地」を表す文字である。この文字が貴樹と明里についていることは、「第二話 コスモナウト」に出てくる貴樹の幻想における「野原」で、前方を共に見つめる女性が、花苗ではなく明里であることを暗示しているのであろう。

「澄田」について

「澄」について

「第二話 コスモナウト」を通じて、物語中の花苗の心は一点の曇りもなく澄んでいる。貴樹への想いに悩むも、その思いはストレートで爽やかである。偽計を用いて貴樹の気を引こうとすることもしない。ただまっすぐ悩むのである。文字通り「澄」である。

「田」について

「田」については、田は自然な状態ではなく人が作ったものである。人手が入らなければ荒れてしまう。つまり、花苗は誰かに気にされながら生きていることを象徴している。クラスメイトもそうだし、母親もそうだが、やはり所々で出てくる姉が花苗のことをかなり気にしてあげている。恋愛が成就すれば、ここに貴樹も加わるのであるが、残念ながら、貴樹は花苗を気にしてはいない。本人も気づいているように、ただ優しいだけである。花苗の方を向いていない。それでは「田」は良い状態を保てない。故に花苗は苦しむのである。

「明里」について

明るい里。一人で先を見ている貴樹にとってのゴールとなるにふさわしい名前である。人里離れた山奥から明かりの灯る里が見えたら、どんなに嬉しいか。その意味で明里という名前は、この「秒速5センチメートル」においては、これ以外考えられないヒロインの名前である。

「遠野 貴樹」について

「遠野」について

これは「遠くの野」というより、「遠くを望むための野」もしくは「遠くを望むことのできる野」という意味だろう。「第二話 コスモナウト」において貴樹の幻想の中に出てくるあの野原のことであろう。

「貴樹」について

貴い樹…これは、「秒速5センチメートル」の象徴となっている桜の木のことであろう。主人公の貴樹自身がタイトルの名前を表している。

また、貴樹という名前は、「実語教」の「山高故不貴、以有樹為貴。」から取られている可能性もある。山は高いからではなく、樹があるから貴いのだと。これは逆に貴樹は山を必要としていると考えることもできる。しかし残念ながら「篠原明里」も「澄田花苗」も山ではなく人の住む里、田のイメージなのである。故に貴樹はさまようのである…と、言いたいところなのだが、1人可能性のある女性がいる。

水野さん

「第三話 秒速5センチメートル」に出てくる、三年付き合って別れた水野さんである。彼女は名字に貴樹と同じ「野」という字を持つ。貴樹の同胞となってしかるべき名前である。下の名前は映画では明かされていないため断定できないが、現時点では明里や花苗よりは貴樹のパートナーにふさわしい名前である。しかし、三年で別れた。これから推測できるのは、貴樹の理想が高くなりすぎているのではないかということである。

貴樹、明里、澄田

主要登場人物3人の名前には、それぞれ人生観もしくは性格を象徴する語が埋められている。

貴樹の「貴」、明里の「明」、花苗の「澄」がそれである。しかし、それぞれの表す内容は異なる。

貴樹の「貴」

貴樹の「貴」は、貴樹本人が気高くあろうとしているわけでもなく、花苗目線でそのように見えるというものである。故に、花苗に出会わなければ意味をなさない名前となっている。

明里の「明」

明里の「明」は更に難しい。明里は物語中に描かれた内容からは、決して特別明るい子供ではない。花苗の方が明るいと言えそうである。大人になっても夏目漱石など結婚直前に読むくらいだから明るいとは言えない。ただし、貴樹を導く明りという意味であれば、納得できる。ただし、結果的にはミスリードとなっていて貴樹の人生は遠回りしているようにみえるが。もしくは、明里とはストレートに明るい火の灯る里という意味で、貴樹が心休まる場所という意味かもしれない。

花苗の「澄」

これは既述であるが、花苗の性格を良く表している。